苦しみ抜いた一年 〜ある里子の記録(後編)

昨日、ご紹介させていただいたお話の続きです。

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■ 苦しみ抜いた一年(後編)
前編はこちらより)

ゆうた君は初めて泣いた日から少し穏やかになった。

暴言や暴力が全くおさまった訳ではないが、
日中どれだけ大暴れしても、夜間は養母にぴったりとくっついて眠り、
その時間は養母にとっても心地よいものだったそうだ。

このまま少しずつ落ち着いていくのかなと、淡い期待を抱いていた。

しかし、ゆうた君と一緒に暮らしはじめて1ヵ月経った時に、
養母から、

「ゆうたを養子にはできない」

というメールが届いた。

「何があったのか?」と大慌てで電話したところ、
養母は精神的に参っているような感じだった。

その日は、養母の外出中に、養父がゆうた君の面倒を見ていたのだが、
いつものごとく、ゆうた君からきつい暴言をはかれ、
養父が養母に愚痴ったのだという。

養母はゆうた君から毎日のようにされていることを、
たった数時間やられて参ってしまう養父にとても腹が立ち、
そもそも、養子を育てようと言い始めたのは養父なのに、
子育てで苦労をしているのは自分だと思うとさらに腹が立つ・・・

養母の話には怒りがあふれていた。

養母から怒りをぶつけられ、養父の方も黙っておれなくて、
売り言葉に買い言葉で、

「夫婦仲を壊してまで養子を育てたい訳じゃない」

と言い、
それならと養母が私にメールを送ったのだった。

養母からすると、

ゆうた君は以前と比べるとだいぶ落ち着いてきているが、
こんな自分たちよりは、もっと良い養親の元に迎えられるか、
施設にいた方が幸せなのではないか、

と考えてしまうのだという。

今回の問題は子どもの問題ではなく、
養父母の夫婦関係の問題であることが分かったので、とりあえず、
「今日は何も考えずにゆっくり休んで」と養母には伝えた。

翌日、仕事から帰った養父に電話をしたところ、
「ゆうたへの対応が大変で、つい言ってしまった」とのことで、
養父としても

「ゆうたを育てていく気持ちに変わりはない。頑張りたい」

と言うので、
養母のサポートの方法を丁寧に伝え、励ました。

その直後に家庭訪問をした。

ゆうた君は夜遅くまでテレビ三昧の生活だったので、
家庭訪問した午前10時頃には起きていなかった。

養母が起こしに行くと、
少し前から起きて私の訪問に気づいていたようで、

「殺すぞ!」

と大声で叫んだ。

早速の洗礼に怯まずに、
「いやや、殺さんといて~」とおどけて応えると、
「帰れ!」と言って、こちらに物を投げ始めた。

きっと大阪に連れて帰られると思っているのだろう

と思い、

「私は一人で大阪に帰るよ」

と説明したところ、

皆がいる居間へ少しずつ近寄ってきた。

暴言にめげずに話しかけているうちに、
話しながら笑顔になることもあり、この1ヵ月の格闘によって、
ゆうた君の頑なさは少しましになったように感じられた。

それからも、ゆうた君と衝突する度に連絡があり、
ゆうた君がとった行動の意味や原因を養母と話し合った。

連絡がある度にヒヤヒヤしたものだが、
その頻度も、
2、3日に1回だったのが、1週間に1回になり、
10日に1回と段々と減っていった。

話の中身も初めは、「こんなに大変なことがあった!」というものだったのが、
徐々に、ゆうた君の良いところをたくさん話してくれるようになった。

養母は、引き取って1ヵ月ぐらいまでは、
何かある度に

「今ならやめられるんじゃないか」

といつも頭によぎっていたのが、
いつのまにか全くよぎらなくなり、

ゆうた君のいる生活が当たり前になっていった、
と心の内も話してくれた。

家庭に迎えられて半年が経ち、
ゆうた君は幼稚園に通いはじめた。

以前から「6月から幼稚園に行くよ」とゆうた君には説明しており、
ゆうた君も「行かなければいけないのかな」とは何となく分かっていたようだ。

朝、どんなにぐずっても、
幼稚園が近づくと車の中で制服を着て、登園していくし、
お友達と同じように遊び、弁当を食べて過ごせていた。

習慣のように、
自分のことを「田中ゆうたくん」と旧姓で呼んでいたのも、
「幼稚園には入江ゆうたで通うんだよ」と伝えると、
名前を聞かれたらちゃんと「入江ゆうた」と答えていたとか。

ゆうた君が家庭に迎えられてから1年がすぎた12月、
特別養子縁組が成立した。

その間、
家族旅行でディズニーランドに遊びに行った帰りに、
以前、週末里親とのお別れ時にUSJに行ったことを思い出し、

養父に「もうお別れ?」と尋ねたり、
不安定になったりしていたので、
実子として入籍できたことを、養母からゆうた君に、
きちんと説明してもらったところ、

養母から

「ゆうたに、『明日からは本当に入江ゆうたになるんだよ』と言ったら、
『えー明日?俺、あさってがいいんだけど』と訳分からないこと言っています。
なんか、子どもが生まれたみたいに、しみじみと嬉しいです(^_^)」

というメールをもらった。

そのメールを読み、私も心から嬉しかった。
親子年齢としてはまだ1年。
これからも続く親子の格闘を、陰ながら応援できたらと思う。

※ 文中仮名 
      
(文:田邉さん)

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