映画「そして父になる」

like-father-like-son--2.jpg (C)2013「そして父になる」製作委員会

是枝裕和監督、福山雅治さん主演の話題作「そして父になる」を拝見しました。

実は僕は是枝監督の大ファンで、
緻密で自然な演出が大好きなんです。

特に「ワンダフル・ライフ」と「花よりもなほ」が僕のお気に入りで、
内容にはあまり共感できないけれど、是枝監督の圧倒的な力量を感じさせる「誰も知らない」、「空気人形」などは、映画人として避けて通れない、日本の映画史に残る作品なのかな、と感じています。

さて、映画「そして父になる」は、

・ストーリーの展開
・登場人物の対比構造
・子どもたちのキラリとした魅力が光る演出
・繊細でナチュラルな台詞と動作

など、2時間、全く飽きる事なく見れますし、
リリー・フランキーさんは助演男優賞並の名演技☆

ネタバレになってしまうので細かく書けませんが、
福山さんがカメラを見るシーンには思わず涙がこぼれました。
素晴らしいアイデアです。

総じて、
本作は是枝監督の「演出技術」を
存分に味わえる作品に仕上がっているんじゃないかな、
と感じました。

「子どもの取り違え」という、
親としては我が子を亡くす事の次くらいに「感情的」になる出来事を、
「淡々と冷静に描く」というパラドックスを機能させる事に、
概ね成功しているのが、

スゴいです。

これが出来る人はほとんどいないんじゃないかなぁと思います。

実は、ストーリー上、釈然としないところも多々あるんですが
(ネタバレになるので末尾に書かせていただいています)、
それを気にさせないのが是枝監督の演出です。

昨年の映画「レ・ミゼラブル」も同じように感じましたが、
冷静に見ると、つじつまが合わなかったり、釈然としなかったり、
不自然に感じたりする事があっても、

それを感じさせず、
どっぷりと作品の世界観に浸らせる「技術」がスゴいんです。

後でよくよく考えれば「あれ?」と思う事も、
その場では大して疑問にも思わない。

これが本当の「映像マジック」と
言えるんじゃないかなぁと思いました。

こんな力が僕にも欲しい。。。

sub_c_large.jpg (C)2013「そして父になる」製作委員会

さて、
参考までに、以下に個人的に釈然としなかった部分など
色々書かせていただいていますが、

誰にとっても完璧な作品なんて存在しませんし、
観る価値のある素晴らしい作品だと思います!

※ 個人的に釈然としなかった部分

(ネタバレありなので映画を観た方のみ読んでください)

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1. 親を交換される事に子どもがほとんど無抵抗である事

2. 5-6年も育てた子どもがいなくなってしまうのは
気が狂ってしまうような事だと思うんですが、
母親が割と冷静で淡々と描かれていた事

3. 子どもを意図的に取り違えた看護師が何の責任も取らない事
(一応、時効という設定にはなっていますが。。。)

4. そもそも「子どもの取り違え」にリアリティが不足している事。

これが「子どもの取り違え」が多発した
1950年代半ば〜1970年代前半頃を舞台にしていたら、
すっと入れたのかなぁと思います。

現在は出産後、すぐに足にマジックで名前を書いたりしているので、
「いまどきそんな事、起きるんですか?」
という主人公の台詞だけだと説得力に欠けてしまうかなぁと。

5. 僕だったら「子どもの取り違え」が分かった時点で、
割とすぐに、本作のエンディングのように、

「血のつながりがあるけれど育てていない子どもも、
血のつながりはないけれど育てて来た子どもも、
両方、自分の子どもだと思って、相手のご家族と一緒に、
協力しながら育てて行く」

という選択をすると思いますし、福山さん演じる主人公・良多以外の
3人の親は、最初からこの結論を感じていたように思うんですが、

良多が唯一、感性が低いために(笑)、他の人間すべてが巻き込まれて、
2時間かけて、この結論に到達する事

(だからこそ「そして父になる」なんですが、
結論が分かっていて、主人公の弱さや未熟さで
なかなかそこに到達しないのは少しストレスになりますね)。

6. 本作は、2時間かけて、本当の意味で父親になっていく
主人公・良多の物語ですが、では、

なぜ主人公は本当の意味で父親になれていなかったか、という事と、
その理由的なものについてはあまり描かれていない事。

おそらく家族よりも仕事に時間を割いている事、その日本的な
職場環境が主な理由だとストーリーからは推測できますが、

割と主人公は余裕で仕事をこなしていて、
仕事に追い立てられている感、
上司からプレッシャーをかけられている所、などがないので、
この点に関しては、描写不足だったのかな、と感じました。

僕も約6年ほど会社勤めをしていたので、父親になる余裕がない
閉塞感が分かるんですが、もう少し、主人公が仕事に追われていた事が
原因の一つとして父親になりきれていなかった、

というような事が描かれていれば、より説得力があったのかな、
と思います。

これは作品の肝なので気になりました。

ただ、僕がここに挙げさせていただいた、3〜6については、
文化的な背景もあるため、おそらく外国人には「そんなもんかな?」とスルーしてもらえる部分ではあるかと思います。

外国映画を観ていると

※ 個人的に唸った是枝演出!

・フランキーさんが福山さんを殴るのではなく、頭をポコっと叩くシーン

・福山さんがカメラを見るシーン

・子どもが鏡に落書きするシーン

・「取り違え」が分かった時に主人公が「やっぱり」というのが
伏線になっているところ

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※ ネタバレここまで

などなどたくさん!
一度しか観ていないので覚えていないところもありますが、
本当に優れた演出がたくさんあります。

繰り返しますが、映画を批判するつもりは全くありません!

素晴らしい作品ですが、個人的に釈然としないところがいくつかあって、
それでも

【一見の価値のある素晴らしい作品】

だと思います。

監督・父
豪田トモ

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