苦しみ抜いた一年 〜ある里子の記録(前編)

監督・父の豪田トモです。

以前もご紹介させていただきましたが
大阪で養子・里子の支援活動をされている
公益社団法人家庭養護促進協会さんの機関誌に
またまた素晴らしいお話がありましたので、
許可をいただいてご紹介させていただきます。

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■ 苦しみ抜いた一年(前編)

5歳のゆうた君の養子縁組が昨年末に完了した。

養親と出会ってからのこの1年、色々なことがあったので、
養父母から特別養子縁組の「入籍」の報告をもらった時には、
本当に嬉しかった。

ゆうた君が「愛の手」に掲載されたのは3歳5ヵ月の時だった。

※ 家庭養護促進協会さんは大阪・毎日新聞さんの協力のもと、
「愛の手」というコーナーで、
親に育てられない赤ちゃんや子どもの写真を掲載し、
50年以上に渡り、養親・里親を募集してきています。

体格が良く、エネルギッシュなのに、
人見知りがきつく臆病なところがあった。

養親(養子縁組をして子どもを引き取る親)は、
東北地方の素朴なご夫婦で、
ゆうた君の記事を見て、

「この子を育てたい」

と強く思ったそうだ。
そして、

「必要があれば何度でも大阪まで行きます」

という意気込みを見せられたのだが、
遠方に住み、しかもご夫婦が高齢だったので、
協会としては非常に悩んだ。

しかし、
他に「ゆうた君をお願いしたい」と思える方がなく、
ゆうた君が家庭で暮らせる最後のチャンスと考えて、
面接、調査の結果、推薦を決めた。

ゆうた君には

・新しいお父さん、お母さんが来てくれること、
・週末里親として定期的に関わってくれていた乳児院時代の担当保育士とはお別れすること

を事前に児童養護施設の職員から伝えてもらった。

新しい出会いと慣れた人との別れが同時にやってくることで、
不安で一杯だったのだと思う。

週末里親宅での最後の外泊の後から、
養親との初回面会までの間、

少々不安定になったゆうた君は、他の子どもを叩いて泣かせたり、
いじわるしたりすることが増えたそうだ。

養親と初めて会った日も、
「やっと会えた」と喜んでおられる養親の横にいるゆうた君は、

表情が硬く、大きい体を縮めて職員にしがみついており、
これからどうなるのか不安なのだろうなと感じられた。

それでも養親から仮面ライダーとお菓子のプレゼントを受け取ると、
ほんの少し表情が柔らかくなった。

その翌日から養母中心で実習がはじまった。

最初、養母にはあまり近寄ろうとしなかったものの、
他の子どもではなく、ゆうた君に会いに来ていることを少しずつ伝えることで、

ゆうた君も養母に抱っこを求めたり、
ご飯を食べさせてもらったり、
会話を楽しんだりできるようになった。

その反面、
自分の思い通りにならないと、
養母を叩いたり蹴ったりした。

実習になかなか来られない養父と話したいと言うので、電話すると、

「お前誰や!」「殺すぞ!」と言い、

「明日行くね」と養父が伝えると

「来るな!」等、ひどい言葉を投げかけた。

※ 新しい親との関わりが始まると、ほとんどの子どもは問題行動を起こして
大人の反応を見ようとしますが、これは「試し行動」と呼ばれています。

この間はグッと我慢し、冷静に子どもの行動を受け止め、
継続的に愛情表現を続けていると、
そのうち落ち着くと言われていますが、
この時に子どもの反応を受け止めずに、叱ったり、注意し続けたり、
適切な愛情表現をしないと、問題行動はエスカレートし、関係性は破綻しやすいようです。

ある意味、「つわり」のようなものかもしれません。
(解説: 豪田トモ)

私が実習の様子を見に行った時には、
それまで機嫌良く養父に肩車してもらっていたのに、
急に養父を叩いたり、わざと高いところに登りだし、

「危ない」と注意されてもヘラヘラするだけでやめようとはせず、
大人の気持ちを逆撫でするような反応をした。

それでも、養母は

「ゆうたの言ったことは反対の意味に受け取ったらいいですね」

と、ゆうた君を受け止めるように努め、

外出や宿泊していたウィークリーマンションでの外泊の練習を何度かした上で
ゆうた君を引き取ることになった。

養親の家に行ってから、
ゆうた君は緊張気味で、
数日は驚くほどおとなしかったそうだ。

その生活にも慣れてくると、
わざと悪さをしたり、
気に入らないと叩いたり、蹴ったり、物を投げたり、
食事を拒否してお菓子しか食べなくなったりした。

養母には常に命令口調で、それに何か言おうものなら、

「お前、あっち行け!」

「いちいちうるさい奴やな」

と言い返し、養親を腹立たせ、また心配にさせた。

引き取り数日後、
地元の児童相談所職員のTさんの家庭訪問があった。

ゆうた君はTさんが自分を見に来ていることをすぐに察知し、
物を投げたり、「殺すぞ!」と言ったり、
落ち着かなくなった。

これから自分はまたどこかに連れて行かれるのではないか

という不安を隠すかのように、
精一杯、虚勢を張っていたのだろうと思う。

何かある度に、
ゆうた君がどんな気持ちでその行動をとったのか、
養母と一緒に話し合った。

それでも、疲れがたまり、気持ちが参ると、
普段は聞き流せることが妙に気に触って、
売り言葉に買い言葉で言い返してしまうことが何度もあったと言う。

特に週に1回のTさんの家庭訪問後は、
養父母の些細な行動に因縁をつけ、
大暴れしたので、ゆうた君の不安を取り除けるように、

養母から

「Tさんは、ゆうたを連れて行く訳ではないよ。

ずっと家にいていいよ。

安心していいよ」

と伝えてもらった。

すると、

養親宅に来てから約2週間、全く泣かなかったゆうた君が、

赤ちゃんのように「あーん」と大声をあげて泣いたそうだ。

大泣きするゆうた君を養父母は必死で抱きしめ、
共に泣いたと報告してくれた。

※ 文中仮名 
      
(文:田邉さん)

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