「親を探したいねんけど」

監督・父の豪田トモです。

大阪で養子・里子の支援活動をされている
公益社団法人家庭養護促進協会さんの機関誌に
とっても素晴らしいお話がありましたので、
許可をいただいてご紹介させていただきます。

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■ 解禁

T君が全身に何となくピリピリとした雰囲気をまとって事務所に現れたのは、
高校3年生の11月のこと。

その少し前、養母さんから、

「Tが一度、話をしたいそうです。。。」

と連絡があった。

T君は小さい頃から年に数回は事務所に遊びに来てくれていたのだが、
一人だけで...というのはその時が初めてだった。

ソファに腰かけるなり、

「親を探したいねんけど」

とT君。

きっとその手の話なんだろうと予測はしていたのだが、
それでも

「ついに来たか」

と、ちょっとドキドキしてしまった。

T君の里親会仲間の先輩が、
実親の親族に会ったという話を聞き、
自分も会ってみたいと思ったようだ。

高校卒業後の進路も無事に決まり、時間ができた今、

「一度気になりだすと、そのことばかり。
頭の中の8割くらいを占めている」

というT君の話をしばらく聞き、

「会いたいっていう気持ちは分かるし、探す方法もあるけど、20才になってからやな」

と言うと、

「なんでよ!」

とつっかかってきた。

・どんな事実が判明してもそれを受けとめられるか、

・相手の生活や立場を思い遣れるか、

・自分の考えや感情をしっかりと伝えられるか、

・このことに関連して派生してくる諸々の事柄に責任のある対処ができるのか、

そのあたりのことを、
できるだけT君にわかりやすいような言葉を選んで話をした
(実際に産みの親と会ってショックを受ける子もいるので)。

「会ってどうしたいん?」と尋ねると、

「なんで育てられへんかったんかを聞きたい」

と言う。

話の流れの中で、
今の養親さんが養子を迎えたいと考え始めてから、
協会とのやりとりを経て、T君と出会うまでの話をした。

協会での面接や調査、そして、施設での実習の話に、
T君は

「けっこう大変そうやん」

と言っていた。

たまたま初めての面会の日の写真も残っていて、
3才の小さなT君の傍らに穏やかな笑顔で寄り添う養親さんの姿を、

「T君、ちっちゃくてかわいいやん。
お父さんお母さんも若いなあ」

と、懐かしく見た。

折に触れて、まめに連絡や写真をくださっていた養親さんなので、
「あの時のT君はこうだった、この時はこうだった」と振り返っていると、

「それ、覚えてるわ」

とT君もいろいろ話をしてくれて、いつの間にか、
最初のピリピリとした雰囲気は消え、和やかに思い出話ができるようになった。

最後に、「今の親のことはどうなん?」と聞くと、

「まあまあちゃうかな」

と言っていた。

この年頃の子どもに「まあまあ」だと言われるのは、
けっこうな「ほめ言葉」なんじゃないかなと思った。

話を終えて、

「ルーツ探しは20才になってから...っていう話、納得したん?」

と尋ねると、

「納得はしてへん」

と言っていた。

そりゃ、そうだろう。
それでも、

「でも、まあ、ええわ」

と言って、T君は帰っていった。

その後、養母さんにT君とのやりとりの報告も兼ねて電話をいれると、

「お会いする前はほんとにトゲトゲしてて、
どうしたらええの~と思ってたんですが、
帰ってきてからは、すっごく穏やかになって...」

とおっしゃっていた。

T君にとって、納得のいく展開ではなかったにせよ、
少しは「ガス抜き」になったのかな、と感じたのだった。

その後、専門学校に進学したT君からは、
「免許とった」「資格試験に合格した」というような、
近況を知らせる短いメールが時々届き、充実した学校生活を送っている様子が伺えた。

そして、去年の10月、T君は20才の誕生日を迎えた。

資格試験の合格祝いも兼ねて、一緒に食事に行き、

「やっとハタチやん。例の話、とうとう解禁やで」

と声をかけると、
T君はニヤっと笑って、

「ああ、あれか。

今はええわ。いろいろ忙しいしな」

と言って、日々の学校生活や趣味の話、卒業後の進路、将来の夢、
それから「恋バナ」...と、生き生きと話をしてくれた。

確かにT君の毎日はとても忙しそうで、
あの時は「頭の中の8割」を占めていたという自分のルーツの話も
今は入る余地がないのかもしれない。

でも、T君のように、揺れ動く思春期の時期に「ルーツ」に関心が向いたけれど、
いざ20才になると「今はまだいい」という子どもは少なくない。

少し落ち着いて思考できる成長と余裕ができた時、
子どもなりに自分にとって最良の「タイミング」を考えられるようになるのだろうか。

帰り道、もう一度

「ほんまにええん?」

と尋ねると、

「ハタチになっていつでも探せると思ったら、
今じゃなくてもええんやなと思った。必要な時には連絡するし」

と言っていた。

T君自身が「解禁」する時まで、
ゆっくりつきあっていこうと思っている。

(文:山上有紀さん)

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